和歌の基礎知識*枕詞
1 枕詞とは?
 慣用的に一定の語を導き出す修飾語で、原則として五音からなるものを枕詞といいます。まれに四音の字足らずや六音の字余りもありますが、入試で問われることはまずないそうです。枕詞=五音と理解してOKです。枕詞は普通口語訳はしません

 次の3つの特徴を覚えましょう。
@ 原則として五音(まれに四音・六音もあるが無視)
A 口語訳はしなくてよい
B 一定の語を導き出す

(例1)
「あしひきの」は直後に「山・峰・木の間」など、[山に関する語]を導く枕詞です。「あしひきの 鳥の尾の…」というふうに使います。「あしひきの」は@五音です。
A口語訳はしなくてよいという決まりにのっとって、「山鳥の」から訳します。
B一定の語を導き出すというのはこの場合[山に関する語]を導くということです。

枕詞は数多くあって、それぞれ導き出す語が決まっています。入試によく出るものは暗記しましょう。

(例2)
家にあれば 笥に盛る飯を 草枕
      旅にしあれば 椎の葉に盛る
[注]笥…竹製の食器
[文法]「あれ(已然形)+ば」でこの場合「〜(いる)と」と訳す。


第三句「草枕」が枕詞です。これは[旅寝に関する語]を導き出します。枕詞の直後を見ると「旅」があります。これが導きだされた語です。
枕詞=くさまくら     導き出された語=旅     
訳:家にいると食器に盛る飯を、旅先にいるので椎の葉に盛ることだよ。

(例3)
(     ) 年の三年を 待ちわびて
          ただ今宵こそ 新枕すれ
[注]新枕…新しい異性と枕を共にすること。その異性と初めての共寝。

空欄に当てはまる枕詞を答えよ、という問題が出ることがよくあります。このようなときは直後の「年」を導き出す枕詞を考えます。「年・月・日・春」などの[暦の変わり目に関する語]を導き出す枕詞は「あらたまの=新玉の」です。(暗記)
枕詞=あらたまの     導き出された語=年     
訳:三年という年月を待って辛い思いをして、(結婚期限の切れる)
  今夜という今夜こそ、新たな男性と枕を共にするのです。

これが枕詞の基礎です。次に、応用編へすすみます。

2 難しい出題への対応テクニックと注意事項は?
@ 知らない枕詞について問われた場合の対処法
 まずは頻出でない枕詞について問われた場合です。枕詞は五百種類以上あるので全部暗記するというのは無理です。絶対無理です。99.9999…%無理です。というわけでここは決まりルールの@とBを使って見極めます。

(例4)
天飛ぶや 鳥にもがもや 都まで     
     送りまをして 飛び帰るもの
[文法]もがもや…「もが+も+や」の一語化したもの。願望の終助詞。「〜だったらなぁ」と訳す。
     もの…逆接的な意味を込めた詠嘆の終助詞。「〜のになぁ」と訳す。


 第一句「天飛ぶや」と第三句「都まで」の五音に目をとめ、枕詞の特徴と照合します。
天飛ぶや」は直後に「」があります。「天空を飛ぶ→鳥」という意味上の関連が見られます。これを枕詞と仮定して訳してみると意味が通じるので枕詞と断定できます。
 一方、第三句「都まで」は直後に「送り」があります。「都まで→送る」という一応のつながりはありますが、「都まで」の訳を除外するとどこへ送るのかわからなくなります。よって、これは枕詞ではないことがわかります。
枕詞=天飛ぶや     導き出された語=鳥     
訳:鳥であったらなぁ。都まであなたをお送りして飛び帰るのになぁ。    

A 難関大学が出す「ひっかけ問題」の対処法
 次に、「ひっかけ問題」の対処法です。頻出の枕詞として暗記している語なのに、枕詞の用法ではないというケースです。

(例5)
たらちねは かかれとてしも むばたまの     
        わが黒髪を 撫でずやありけむ
[単語]かかり…こうである(「かく+あり」が一語化したもの。「かかれ」は命令形。)
[文法]とて…引用の格助詞。「〜と言って・と思って」と訳す。
    や…詠嘆の間投助詞。訳は文末にまわして「〜なあ」。
    けむ…過去推量の助動詞


 第一句「たらちねは」と第三句「むばたまの」はともにルール@を満たしています。しかし枕詞であるならルールBの条件も満たすはずなので直後の語と意味上の関連があるかどうかを確認します。

 第一句「たらちね」は直後に[母親に関する語]を導き出します。しかし直後の第二句「かかれ(=こうありなさい)」には[母親に関する語]がなく、意味上の関連性がまったく見られません。

 よって、第一句「たらちねは」は枕詞ではないことがわかります。この「たらちね」は枕詞ではなく、普通の名詞として使われているということです。

 では、第三句はどうでしょうか。「むばたま=鳥羽王の」は[暗黒に関する語]を導き出します。直後の第四句に「わが黒髪」とあり、「」が導き出される語に該当するのでこれは枕詞であるということになります。
枕詞=むばたまの     導き出された語=黒     
訳:お母さんは「このように(剃髪)しなさい」と言って、
  (小さい頃に)私の黒髪を撫ではしなかっただろうになぁ。

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