唐詩
書き下し文・現代語訳
春暁 孟浩然
春眠暁を覚えず 処処に啼鳥を聞く
夜来風雨の声  花落つること知んす多少ぞ

現代語訳
春の夜明け 孟浩然
春の(心地よい)眠りの中(でうとうとしていると)、夜明け(になったの)も気付かない。あちこちで鳥のさえずり声が聞こえる(ようだが、どうやら朝になったらしい)。 (そういえば)昨夜からこのかた、風や雨の音がしていた。花はどれ程散っていることやら(沢山散ったのだろうなぁ)。

秋風の引 劉禹錫
何れの処よりか秋風至る 蕭蕭として雁群を送る
朝来庭樹に入り     孤客最も先づ聞く

現代語訳
秋風の引 劉禹錫
どこから(この)秋風は(吹いて)くるのだろうか。秋風が寂しげに吹き、雁の群れを(北の方からこの南の地へ) 送ってくる(ように吹いている)。朝から庭の木々に(吹き込んで)入っ(てき)た(その秋風の音を)、ひとりぼっちの旅人(である私)は、最も先に耳にするのである。

江雪 柳宗元
千山鳥飛ぶこと絶え 万逕人蹤滅す
孤舟蓑笠の翁    独り寒江の雪に釣る

現代語訳
川の雪 柳正元
(雪の降り積もった四方の)山々には、鳥の飛ぶ姿も全く消え、 (四方に通じる)ほとんどの小道は(雪に埋もれて)人間の足跡も消え果てている。 (見渡す限りのこの銀世界の中に)一そうの小舟を浮かべて、みのかさ姿の老人が、一人きりでさむざむとした川の中に釣り糸を垂れている。

山中問答 李白
余に問ふ何の意ぞ碧山に栖む 笑ひて答えへず心自から閑なり
桃花流水?然として去る   別に天地の人間に非ざる有り

現代語訳
誰かが私に、君はどういうわけでこんな緑深い山に棲んでいるのかと尋ねる。そんな質問に私は笑っているだけだ。そんな俗人の問いかけにはお構いなくのどかな気持ちである。桃の花びらが水に浮かんで、はるかに奥深いところに流れて行く。ここには人間世界とは違った別天地があるのだ。

贈別 杜牧
多情却つて総て情無きに似たり 唯だ覚ゆ髄O笑ひの成らざるを
?燭心還有り還た別れを惜しむ 人に替はりて涙を垂れ天明に到る

現代語訳
贈別 杜牧
あふれる思いは、逆にまったく感じない心のように見える。(あなたと別れるに際し、あまりの悲しみに何をどうしてよいのかわからないまま、)酒樽を前にしてあなたに微笑んで見せようとはするのだが、 (笑いはこわばり、)まともな笑いにならない事が自覚されるばかりである。蝋燭の芯も感じる心を持っていて、(やはり)また別れを惜しむ。わたしに代わって涙を流し続けてくれる、夜が明けるまで。

元二の安西に使ひするを送る 王維
渭城の朝雨軽塵を?し 客舎青青柳色新たなり
君に勧む更に尽くせ一杯の酒 西のかた陽関を出づれば故人無からん

現代語訳
元二が安西への使者として旅立つのを見送る 王維
(君を送ってきた)渭城(=長安の北西の町)では、朝の雨が、(あたり一面を覆っていた)軽く舞う土埃をしっとりと濡らしている。宿の柳も(今朝の雨で土埃を洗い流したのか、)青々として鮮やかな緑色を取り戻した。(いよいよ、君との別れの時が近づいてきた。)さあ君よ、もう一杯この杯の酒を飲み干せ。西方にある陽関を出てしまえば、もはや昔からの友達は誰も居ないだろう。

涼州詞 王翰
葡萄の美酒夜光の杯 飲まんと欲すれば琵琶馬上に催す
酔ひて沙場に臥す君笑ふこと莫かれ 古来征戦幾人か回る

現代語訳
涼州詞 王翰
美味いぶどう酒を、(夜光の)白玉で作った杯に満たす。(それを)飲もうとすると、(酒杯を飲み干すのを) 促すように琵琶の音が馬上から起こる。(もし私が)酔いつぶれて砂漠に倒れ伏しても、君よ笑ってくれるな。昔から(遠い辺境の地に)出征して、一体何人が生きて帰っただろうか。

旅夜懐ひを書す 杜甫
細草微風の岸 危檣独夜の舟
星垂れて平野闊く 月湧きて大江流る
名は豈に文章もて著れんや 官応に老病もて休むべし
飄飄何の似る所ぞ 天地の一沙?

現代語訳
旅の夜胸の思いを書き記す 杜甫
細かな草の上をそよ風が吹いていく岸辺で、高く聳え立つ帆柱のある舟中にただ一人で過ごす夜。星は(地平線にまで)垂れ下がって(輝き)平野は広がり、月は大江(=大きな川)の中から湧き上が(るかのように水面に映)り、大江は(悠々と)流れている。人の名声はどうして文字によって世に表れるだろうか、いや、あらわれない。 (といっても)官職は老病によって当然やめなければならなかった。行くあてもなく彷徨うこの身は何に似ていようか。天地を彷徨う一羽の砂浜に遊ぶカモメ(とでも言おうか。)

八月十五日夜禁中に独り直し、月に対して元九を憶ふ 白居易
銀台金闕夕べに沈沈たり 独宿相思ひて翰林に在り
三五夜中新月の色 二千里の外故人の心
渚宮の東面煙波冷ややかに 浴殿の西頭鐘漏深し
猶ほ恐る清光同には見ざらんことを 江陵は卑湿秋陰足し

現代語訳
八月十五日の夜宮中で一人で宿直りし、月を見て元九のことを思う 白居易
美しい高楼や桜門では夜が静かに更けてゆく。(私は)一人で宿直し、君の事を思いながら翰林院にいる。十五夜ののぼったばかりの月の美しい色(を見るにつけ)二千里のはるかかなたにいる親友(=元九)の心(がどのようなものであるかがしのばれる)(君の居る)渚宮東側では、もやがかかった水面は冷え冷えとして、 (私のいる)宮中の湯殿の西側では、時を知らせる鐘と水時計の音が深々と響いている。それでも(私にとって)気がかりな事は、君がこの清らかな月の光りを、(私と)同じようにこの清らかな月の光りを、(私と)同じように眺めることが出来ないのではないか、ということだ。 (君の居る)江陵の地は、土地が低く湿気が多くて、秋は曇りがちの日が多い(ので月が見えないと聞いている)から。

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