清貧譚
P160 上l9
「創作の本道」
ここでは、自分の考えた筋でもないものを取り入れ、別の「創作」と呼ぶことが、芸術のあり方として正しいかどうかということ。
(この作品がある出典に基づいたものであることをもって、本来あるべき「創作」と呼べないのでは、という考えを想定している。)

「私」の考え…
この原文は「故土の口碑」(民間伝承民話)に近いもので、別の時代、別の国の作家が思い入れや空想を込めて書き改めたものをひとつの「創作」として認めて差し支えないだろう。
(P160の芸術論は本文の主題と関わらせて解釈するのが自然である。本筋の中での菊の存在を芸術のあり方になぞらえて読み進めることも可能でそれを読者に意識させる意図とも考えられる。)
P160 下l6
「新体制」
言論制限下における作家としての発想の表出法について作者の考えている構造。
P161
才之助の菊へのこだわり
「どのような無理算段(苦心して都合しようとする)をしても」、よい菊の苗を求めていた(P161 上l6「発足(旅などの出発すること)」
P162 上l9
「人品」…人柄、品性。
「典雅」…整っていて上品。
l11
「なれなれしい…」→「つられて気をゆるし」→「江戸へ帰ります」→
「どちらからのお帰りですか」…旅そのものについての話へと広がるきっかけになる。

旅の話は、きまっている」(旅中の会話が、よくこうであるように)…
天気、行き先や出所などに始まり、その後旅の目的など私的な領域にも及ぶような展開(後の菊の議論に至る経緯の自然さを表現している)。
P162 下
菊についての議論
→芸術論としての解釈ができる(作品のはじめの段落を参照)
例)
「苗」⇔「手当て」、才能⇔修練、本能・直感⇔作為、主題⇔表現、作家⇔読者、
(意図・動機)⇔(解釈)
該博…(学識などが)広い。
やり切れない…対処しきれず、すっきりしない。
P163 下l9
「江戸へ上る」
時代から言って京都へ向かうことを指すのでは?
P164 上l12
「顔を赤らめた」(下l15「顔を赤くした」を参照)
意識している様子。
P164 下l4
「退廃」…崩れ衰える、壊れ荒れる、不健全になる。
P164 下l18
「もう議論を…」
才之助と三郎の間の、思想や感覚の不一致を示唆している。(議論になるのは時間の問題だということ)
P165 下l15
「そんなつもりだったのかい」
「ご恩法報じの…機会」…元の菊より良い菊として再生させる。他、「ため息」や「小声」から、三郎の察したと思われる理由も考えられる。
 ・馬を逃がすことで移動手段を失い、結果ここに居続けることを意図する。
 ・菊の手入れという用事を作る。→才之助の近くを動く気がないことを示す意思表明  とも取れる。
P166
三郎の「手入れ」を受けた菊畑の描写(才之助によるものとの対照から)
「生気…水分…重く柔らか…静脈に波打たせて伸び腰…」…動的・有機的な様子を擬人的な表現で描写している。
→生命感を印象付ける意図とも考えられる。
「舌を巻く」…感心し、驚く。
P166 下
志士…身を犠牲にする程の志を持った人。
P167 上l3
「とて」
それだけですら「不機嫌」なのに新たに不快にさせられることがあった。
→三郎の申し出に対して不快を覚えている。(若年の相手に経済状況を心配された こと、菊を金にかえようという誘いを受けたことなどから)

P167の才之助と三郎の議論
「高い趣味」を金に結びつけることの是非。(芸術論としての読みかえができる)
才:芸術は、商業性と関わらせてはいけない。
三:芸術に潜在するある程度の商業性は否定できない(実力を認められて生活費を   稼ぐのは当たり前で、それは悪ではない)。
  「俗といって軽蔑するのは、間違いです」
P168 l11
「閉口」…あきれてどうしようもなくなる。
P168 下l10
「心中おだやかでなかった」、l13「義憤やら嫉妬…」
菊作りで負けた(l11)ことで、また三郎へのマイナスの感情を持つことになる。
l13「けしからぬ。こらしめてやろう」

ここまでと同じ展開なら「議論」や「絶交」など険悪な方向に向かう。

P169 上l8〜
「負けました」「どうか、君の弟子にしてください」
(三郎の育てた美しい菊が、苗のときに自分が認めなかったものから作られたと知り、主義を完全に破られ反論の余地を失った。)
P169 上l12
胸をなでおろして(安心する、ほっとする)…」という動作の意味するもの
(「安心する」などの慣用句的意味でとる場合)…
「さらりと」に続くべき本心を言いかけて止めることができた安心と取ることができる。
(むしろ「さらりと水に流してください」と言いかけたところで止めて、自分の引け目を示さずに済んだ。)
P169 上l13
「…けれども、―――。」
          ↑
    「いや、そのさきは…」
菊を金に換えることに対する考え(「潔癖の精神」)について、ここでは三郎は理解を求めている。
下l11
「殊に」…とりわけ。特別。
l14
「神妙」…普段と違うおとなしい態度。
P170 上l6
「神秘」…合理的にはわかり得ない、または説明できないことの喩え。
(→ここでは、三郎は、菊を売ることに消極性を表現している。)
P171 上l1
「結納」…婚約成立の証として、男から女方へ金品を渡す、また女方がそれに返礼す       ること。
上l9
「狼狽」…あわてる。うろたえる。
上l15
「清貧がいやでなかったら、いらっしゃい…」
(条件の提示ではなく、断る言葉を補っている表現)

「清貧は、いやじゃないわ」
(断られたのをわかっていないというより、何より結婚することを優先させ、文字通り条件として解釈した返答をする)
P172 上l1
「清廉の士」…心が清く、私欲のないこと。
「〜をもって任ず」…自ら、その資格のある者として務める。
「〜申し候」…文語表現の形で才之助のこだわる生き方が表されるように書かれている
P173 上l1
「私ともあろうものが、そんな不浄なお金を…」
自身の「清廉」さを前提とし、不当にものを得ることへの抵抗を示している。
不当に…菊を売った金であることと、妻からもらう金であること。
P173 下l2
「男子」
P172 下l5の才之助自身の言葉を引用し、そのこだわりを浮き立たせている。
P174 上l1
「一日」(いちじつ/ひとひ/いちにち)…ここでは「ある日」ということ。
下l5
「嫌厭」…厭う、いやがる。

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